2020年7月25日土曜日

その川を渡らないで


父は、川を渡るのかもしれない
流れる雨の風景を見ながらそう思う日々があった




川のほとりから見る風景の先に居るのは


原爆で亡くなった祖父母か
会社を開発しまくった奇天烈な叔父か
父より先に逝った愉快な友人達か



輸血や治療の度に求められる同意書にペンを走らす時



これは親子の愛なのか
エゴなのか
家族の執着なのか



答えが出ないまま名前を書き
83歳の父は川の向こう岸へ向かわず
こちらへ踵を返してくれた



体力を戻してから、すべき大きな治療もあるけれど
大学病院の素晴らしいドクターと看護師さん達とお陰で
回復し食事が取れる様になってきた



すると病院でコロナが発症し
安全リスクや諸事情で泣く泣く別病院へ転院となった



今いる病院では感染予防の為
面会は絶対禁止
食事の差し入れも厳禁




朝夕に父へ電話をし2・3分おしゃべりするのが日課となり
日々の様子に注意深く耳を傾けて
顔を見れない寂しさにも慣れてきた



この先、父が川を渡る時は
神様から呼ばれて父が決めるのだろう



どんな境遇があっても
いつかは川を渡る


そしてその先の愛に辿りつくのだと思う



9Neuve 貴子

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